■ 佐渡トキ保護センターのトキの繁殖 繁殖期の始まり(12月~2月)
春の産卵にむけてトキの羽の色が変わり始めました。トキの繁殖期を迎えると佐渡トキ保護センターはいつもにまして忙しくなります。 今回からシリーズでトキの繁殖のようすと佐渡トキ保護センターの仕事を紹介をします。お話しは佐渡トキ保護センターの和食雄一獣医師です。
●ペア選び
秋になると翌年春に繁殖を行うトキを選びます。
トキは2歳になると繁殖ができます。センターでは余裕をみてたいてい3歳以上のトキでペアをつくります。健康状態の良くないトキや、
ストレスに弱い神経質なトキは繁殖の候補から除きます。そして遺伝的に関係が一番遠いトキ同士(Aペア(友友・洋洋)の子とBペア(優優・
美美)の子)を選び、年上の順にペアにします。遺伝に配慮するのは、近親交配による害を出さないようにするためです。
トキはもともとの数が少ないので血縁関係がわりと近いもの同士で交配し子どもを増やさざるを得ません。
近親交配によってさらに血が濃くなると奇形や繁殖に障害をもつトキが生まれる可能性が高くなります。
●ペアを繁殖ケージに
繁殖期が始まる前に、新しいペアを繁殖ケージに移します。ペアはつがいごと個別の繁殖ケージで生活をします。
ペアになっていないトキはオスとメスのケージに分かれて大勢で生活をしています。新しいペアをつくるときには、
ケージの中から候補のトキをそれぞれ捕まえるので人手がいります。捕まえるときにトキが傷ついたりする危険もあります。
センターでは年に数回トキの定期検診があり、そのときに東京の動物園の人たちが来てくれます。12月中旬にも定期健診があるので、
そのときを利用して東京の動物園の人たちと職員が定期検診とペアリングと移動を手際よく行います。

(繁殖期のペア 写真:佐渡トキ保護センター)
●羽が黒色に
繁殖期のトキは黒灰色の体をしています。繁殖期にも色が変わらないのはまだ繁殖のできない2歳未満の若鳥です。成鳥は一般的に1月中旬から、
早いと12月の中旬から羽が黒くなり始めます。これが繁殖期の始まりです。
まず首の辺りに黒色の斑点が出て、水浴びのとき体にこすりつけていきます。やがて体に黒いところが広がり色も濃くなっていきます。
首がとどかないところは黒くなりません。トキの羽色の変化のさせ方は他の鳥には見られない独特の方法です。
黒色の物質の正体は、フケのような皮膚がはがれ落ちると言われていますがまだ研究は進んでいません。
黒い斑点が出るところの皮膚は一年を通して黒い色をしていて、繁殖期になるとそこから黒い粉末が出てきます。黒色の粉末は水には溶けません。
職員がトキを抱くと黒色が服につくこともあります。
なぜトキが体を黒灰色に変化させるかというと、トキが巣で卵を温めてじっとしているとき、
ワシやタカといった上空を飛んでいる天敵に見つかりにくいようにするためとも言われています。でもこれもちゃんとは分かっていません。

(黒色の物質と、その拡大)
●巣をかける
1月下旬から2月下旬の間にケージ内に人が作った巣を取り付けます。巣の大きさは鳥の種類・体長によって異なります。
トキの巣の大きさは直径65センチくらい。巣を取り付けても、はじめトキは巣をつついてみたり「何かあるな」
と確認するだけで巣材を入れません。
トキが巣材を入れ始めるのは早くて3月上旬、卵を生む直前です。トキの巣づくりは産卵のはじめから巣が完全にできていることはなく、
卵を産んでから巣材を入れていく傾向があります。ヒナがふ化をした後にも巣材をどんどん足していき、
子育てをしながら徐々に巣を作っていきます。

(手づくりの巣。巣を持っているのは和食獣医師)
センターで使う巣は金子獣医師の家族が藤のツルを使って編んだものです。毎年工夫を重ねていて、最近は浅くて「め」の荒い巣です。 自然の巣はもともと浅いことや、めを荒くつくることでトキのペアに土台の部分から巣づくりをしてほしいと考えたからです。 工夫をしていますが、去年までのところトキたちは土台を補充するための枝はあまり入れず、 相変わらず草ばっかり入れて巣づくりを済ませています。
●トキのつがい
種類によっては、毎年新たなペアで繁殖を行う鳥もいますが、トキを含むコウノトリ目の鳥は生涯ペアを変えません。
センターの場合は人が選んだペア同士で繁殖をします。過去に1組だけ、始めから仲が良くなく解消したペアがいましたが、
ほとんどは一度ペアになると毎年仲良く繁殖を行います。中にはオスがメスをつついたり、追い回したりケンカをするペアもいます。
そういうペアも最終的には卵を産んでヒナを育て、毎年うまくいくことが多いのです。

(相互羽づくろい 写真:佐渡トキ保護センター)
●求愛行動
繁殖期に入ると求愛行動が盛んになります。求愛行動は、ケージの中にある木の枯れ枝をくちばしで拾ってきて相手に渡す「枝渡し」や、
お互いの羽つくろいをする「相互羽づくろい」、実際の交尾には至らないけれど、オスがメスの上に乗ってくちばしをカツカツと合わせる
「擬交尾」があります。あとはやかましくお互い鳴き合ったりします。求愛行動をいつから始めるかどうかはトキのペアによってそれぞれです。
擬交尾はオスだけ、メスだけのケージでも行われることがあります。
下になるトキと上に乗るトキは決まっていて優位を示す意味があるのだと思います。
枝渡し、相互羽づくろい、擬交尾、鳴き合ったりなどの求愛行動は、他の鳥でも見られます。

(擬交尾 写真:佐渡トキ保護センター)
●性格の変化
普段はおとなしい性格のトキですが、繁殖期になると卵やヒナを守るために性格が変わります。飼育員が部屋に入ると、普段は鳴かないトキでも
「出て行け」と言うかのようにタアータアーと鳴きます。とくにオスは激しく、
給餌をするだけなのにわざわざ飛んできて頭をつつかれたこともあります。
●産卵が始まるまでの仕事
飼育をする上で常に重要なことですが、繁殖中に職員が一番気をつけなければいけないことはトキにストレスを与えないことです。
トキはストレスと受けると、せっかく産んだ卵やふ化直前のヒナを巣の外へ引っ張り出してしまうことがあるからです。
そこで2月中にケージの中と外の掃除や草刈りなど、トキにストレスのかかる作業を終えてしまいます。
あとは3月にトキの産卵が始まるのを待つばかりです。

(ケージ前を草刈り)
「佐渡トキ保護センターのトキの繁殖」シリーズ、来月は『受精から産卵(3月)』
です。
