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■ 佐渡トキ保護センターのトキの繁殖 受精から産卵(3月)

3月はトキの産卵が始まる時期です。3月のトキの繁殖のようすと、佐渡トキ保護センターの仕事を紹介します。 お話しは佐渡トキ保護センターの和食雄一獣医師です。

●交尾が始まる
3月に入ると交尾が行われるようになります。オスがメスの上に乗るのは擬交尾と同じですが、交尾ではオスの尾羽をメスの尾羽の下に入れます。 交尾は1分もないわずかな時間です。トキをはじめ鳥類は、卵、精子、フン、尿を体の同じ出口から外へ出します。その出口を「総排泄口」 (そうはいせつこう)と言います。オスの総排泄口には小さい突起がついていて、 それをメスの総排泄口に合わせて精子をメスの体の中に入れます。

●受精と有精卵
卵子が排卵されるのは昼の2時~3時くらいです。だいたい3時間以内に精子を受け取って受精しないと、ヒナができない「無精卵」になります。 精子が受精できる能力を持っているのは約2~3日間です。メスの体内で卵子が降りてくる時に生きている精子がいて受精すれば「有精卵」 になります。命のもととも言える有精卵は、このようないろいろな偶然が重なってできます。
無精卵ばかり産むペアは、交尾がうまくいっていないことが考えられるので、総排泄口の周りの羽を切ってあげることもあります。
卵子はメスの体内を下るにつれ、まわりに白身、殻、と卵の形が順に作られて総排泄口から生み出されます。 受精から産卵までにかかる時間は24時間くらいです。

●トキの産卵
トキが産卵するのは夕方です。トキは産卵が近づくと力んだり、巣の中を落ち着きなく歩き始めます。それを5分くらい繰り返し、 じっと座って卵を生みます。1日に生む卵は1個だけです。だいたい1日おきに産卵して計3~4つの卵を生みます。 トキの卵はニワトリの卵のLL玉くらいの大きさです。重さは60~80g程度で、緑っぽいところに茶色の斑点がある色をしています。
産卵は、ペアリングをしていないメスもすることがあります。メスは、日照時間の変化や十分な餌の量があるなど、 ヒナを育てる環境が整っていると判断すると卵を産みます。卵はどれも無精卵なので、飼育員が回収します。

トキの無精卵
(トキの卵)

●頭の切り替え
卵を生んだ直後は、まだ巣の中に草を敷き詰めていないことが多いため、トキはあわてて草を運ぶようになります。 1個目の卵を生んでも温めないトキのペアもよくいます。特にオスに多いのですが、卵を世話する頭の切り替えができていないようです。卵は、 一度温め始めた場合は、保温を続けなければ卵の中の命が絶えてしまいますが、温め始めなければ1週間くらいはそのままでも大丈夫です。 卵をほうっておいたトキも卵を1、2個生むとようやく温めたり巣材を運ぶようになります。野生のトキの産卵時期は4月の上旬と聞きます。 センターでのトキの繁殖もその頃の産卵がとくにうまくいくようです。どうやらトキの頭が切り替わるのがその頃のようです。

抱卵
(抱卵  写真:佐渡トキ保護センター)

●交代で卵の温め
ヒナが誕生するまで約28日間、卵を温めます。どんな生物でも体を作ったり活動するために決まった温度が必要です。 鳥も人間も恒温動物で自分で体温をいつも一定にしていられますが、卵は自分で温度調節ができません。そこで卵を温めてあげる必要があります。
トキはオスとメスが共同で子育てをします。卵を温める「抱卵」は、昼は主にメス、夜は主にオスが行います。卵を産むと、 オスもメスも卵を抱きたがります。メスが卵を温めているそばで、何もないのにオスが卵を温めるようにして座っていることもあります。 抱卵を交代するときは、交代してほしい方が羽根をちょっと広げるのが合図です。エサを食べていたペアのトキもそれを見て巣へ交代に来ます。

●卵を冷やす、転がす
トキはたまに立ち上がって、抱卵している卵を口ばしで転がします。転卵は卵を均一に温めることと、冷やしたり換気することが目的です。 卵が呼吸したり悪い菌が卵の中に入るのを防ぐために新鮮な空気が必要です。

●巣材や卵を出してしまうペア
卵を産んだ後、いつまでたっても巣に巣材を入れないペアがいます。巣材がないと卵が落ちたり、卵やヒナが土台の「め」 にはさまってしまうので飼育員が巣材を入れます。飼育員が巣材を入れても、巣材を外に出してしまうペアもいます。 そのような行動をするペアは、たいてい卵を温めず人工的にふ化させたヒナを戻してあげても育てない傾向があるので、 卵やヒナは人工的に育てることが多いです。
卵を口ばしでくわえたり転がして卵を巣から出してしまうトキもいます。トキは巣の中をいつも清潔に保ち、異物があるとすぐ外へ出しますから、 卵を出してしまうトキは卵も異物と思ってしまっているのかもしれません。 卵を巣から出してしまうことは産卵期の中で最も多いアクシデントです。産卵時期が早く、 トキの頭の切り替えができていないことやストレスが原因と考えられています。卵を巣の外に出すのは、生んですぐや、 長くても翌朝が多いので飼育員が卵をとるすきがありません。落ちた卵でたまたま割れなかった卵はペアに戻したり、 ペアに育てられないと判断した場合は人工ふ化させます。

ケージ内トキの巣イメージ
(ケージ内のトキの巣を再現)

●人工繁殖
トキは巣から卵がなくなると繁殖期であれば何度も産卵をします。この習性を利用して、 子どもの数を多く確実に得たいトキのペアには人工繁殖を行います。
トキは3~4つの卵を産みます。卵が落ちたり、割れたりした場合は補充卵を生み足します。トキが卵を生んで、 一番最初の卵がふ化する直前に卵をとります。1週間くらいするとペアはまた何日かかけて卵を生みます。 自然ならば最大4羽のヒナが生まれますが、人工繁殖をすると最大8羽のヒナが誕生するわけです。トキへの負担を考えて、 卵をとるのは1回だけです。2回目に生んだ卵はトキのペアに育ててもらいますが、場合によっては人工ふ化もします。 卵を巣からとってしまうとトキはまた卵を産んでしまうので、無精卵もしくは擬卵(トキの卵のレプリカ)を巣に入れておきます。 そうするとトキは巣の中の無精卵や擬卵を温めます。

●人工ふ化の作業
人工的にふ化させる卵はふ卵器を使って温めます。ふ卵器は温度と湿度を一定に保ち、1時間ごとに転卵をする器械です。 1日4回5分程度職員が扉を開け、わずかに温度を下げます。これはトキが抱卵のときに立ち上がるのと同じ作用です。卵の重さを1日1回量り、 毎日一定の重さが減っているか確認します。卵が呼吸をしていることもあり、殻の中からは水分が減っていきます。 卵の重さの減り方が一定ではない場合は、湿度の調整が必要です。

ふ卵器
(写真:佐渡トキ保護センター)

卵を温めて約10日後、有精卵か無精卵かを診断します。卵に害のない特殊な光を当てると、有精卵の場合は血管のため卵全体が赤く見えます。 後半に入った18日目くらいに、ヒナが成長しているか確認をします。板の上に卵をおくと、卵が寒さでプルプルと震えます。 この動きはヒナが成長している証拠です。
26日目くらいになるとハッチャーという器械に移します。卵を温めるトキは、卵がふ化する前になるとよく立ち上がるようになります。 そこでハッチャーの温度は少し、わずか0.4度低く設定されています。湿度は高めで転卵や放冷はしません。ふ化のときをむかえると、 ヒナが中からつついて卵に穴が開き始めます。

検卵
(写真:佐渡トキ保護センター)

●気が抜けない産卵期
産卵が近づくと、必ず飼育員の誰か1人がモニターにはりついてトキのようすを看視します。産卵したかどうかや、 産卵した卵を外に出していないか、ちゃんと抱卵しているか、卵が詰まったり、総排泄口から出血をしていないかなど、 異変がないか気を配ります。
卵を産んだ後のペアの行動は繁殖がうまくいくための1つの通過点です。産卵が始まり1つめの卵がうまれると、 今年もいよいよトキの繁殖期が来たと気が引き締まります。

●巣材の準備と補給
3月中旬、特に産卵が始まるとトキが毎日たくさんの草を巣に運ぶようになるので、常に巣材があるように準備をします。 巣材に使う枝は栗や松など、日本に昔から生えている木の枝です。トキは50とか60センチとか長めの枝が好きです。又割れになっていたり、 葉っぱがついている枝も運びます。ケージの巣では、長い枝や又割れのものは巣の土台に刺さって飛び出たままになって危ないので、 センターでは長さ20から40センチくらいの、又割れしていない枝を使っています。
草はケージ内などに生えるスズメノカタビラを使っています。2月下旬になると生え始めます。野生のトキがよく巣に用いたと言われるコケや、 刈った草だと、卵が中に埋まったり土台の「め」から落ちてしまうので、草の株や根元から使います。職員が草を引っこ抜いて乾かし、 土をたたき落とします。

枝の準備
(枝つくり)
ケージ内で草をとる
(巣材用の草とり)

トキのペアは、人がケージに入ろうとするとワシやタカなど天敵が近づいたときの鳴き声を出して威嚇してきます。 逃げるということはまずありません。さすがに、飼育員が脚立をかけて巣の中をいじろうとすると巣から離れます。 人に馴れているベテランのトキは、飼育員が巣の中に草を入れようとすると手や腕をつついてきます。 1999年に中国からセンターに来たヨウヨウ・ヤンヤンのペアにいたっては、 エサをあげるだけなのに飼育員のところへわざわざ飛んできて頭をつつくこともあります。飼育員は自分の身を守らなくてはと思う一方、 避けたり防御したことでトキにケガをさせるようなことがあってはいけないとも思うので、トキの攻撃はそのまま受けています。


「佐渡トキ保護センターのトキの繁殖」シリーズ、来月は『ヒナの誕生(4月)』 です。

[ 掲載日 2008年03月12日 | トキのニュース ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]