■ 佐渡トキ保護センターのトキの繁殖 ヒナの誕生(4月)
4月になるとトキの卵がふ化を始めます。今月はヒナ誕生と佐渡トキ保護センターの仕事について紹介します。 お話しは佐渡トキ保護センターの和食雄一獣医師です。
●一斉にふ化する
トキの卵は産卵後28日目くらいでふ化します。トキは3~4つの卵を8日間ほどかけて生みますが、ヒナはわりと短い間隔で一斉に生まれます。
鳥類の産卵では最初の卵が大きく、順に小さくなります。そのため、卵の大きさによって温まりやすさが調節され、
ふ化の時期がほぼ同じになるのだと考えられています。

(ふ卵器で保温中のトキの卵)
●初めての肺呼吸
卵の中のヒナは、卵の殻を通過した酸素(空気)が、血管に吸収されることで呼吸をしています。
トキの卵は、鶏の卵と同じように先がとがった方と、丸い方があります。この丸い方を「鈍端(どんたん)」と呼びます。卵の中でヒナは、
鈍端の方に頭が向いています。鶏の卵でゆで卵を作ったとき、鈍端と殻との間にすきまができます。そこを「気室」といい、
中に空気が詰まっています。ヒナは最初に気室を破って徐々に肺呼吸に移行し、卵の中で鳴き始めます。それから約8時間以内に殻をつつく
「はしうち」を始めます。
卵の中のヒナは黄身から栄養をもらいます。ヘソと黄身の部分がつながっていて、ヒナが大きくなるにつれ黄身が小さくなり、
ふ化するときにはヒナの体内に吸収されます。
●卵から出る36時間
ヒナは「はしうち」
を始めると休むことなく口ばしを動かし続けて殻を割り、約36時間かけて殻から出ます。最初は鈍端の同じ場所をペコペコとつついていますが、
ふ化する1~2時間前になると反時計回りにヒビを入れて進み始めます。円の3分の2くらいまでヒビを入れたら、
あとは殻を押し出してふ化します。
理想的なふ化はヒナが親トキのお腹の下で生まれることです。ふ化中に親トキが卵をいじり、親トキがヒナを卵から引っ張りだすことがあります。
その場合、ヒナはほとんど死んでしまいます。そのため、飼育員は親トキの卵への接し方に特に注意して観察します。

(ふ化直後 写真:佐渡トキ保護センター)
●ふ化の手助け
人工ふ化の場合、はしうちから36時間たってもヒナがふ化できないときには、獣医師が判断して殻を割る介助をします。
ヒナが体力を使いきったり、時間がかかることで体全体が乾いて死ぬことがあるからです。ヒナがふ化する時期は、
夜中のふ化に備えて獣医師がセンターに泊まり込むことも少なくありません。
●生まれてもお腹の下
生まれたばかりのヒナは、毛が少なく、地肌が赤黒く見えます。目は開いておらず、首を起こす動作ぐらいで、もぞもぞと動くのがやっとです。
生まれてからしばらくは、鳴く、首を上げる、エサをもらう、寝る、というようすでほとんど寝ています。
巣にいるヒナは親のお腹の下で卵と一緒に抱かれています。これを抱雛(ほうすう)と呼びます。
抱雛はヒナが成長して自分の体温を調節できるようになると行わなくなります。

(ふ化直後、首や足を動かしてもぞもぞしています。 写真:佐渡トキ保護センター)
●消化時間とエサ
トキはオスもメスもヒナにエサを運びます。親トキはエサを食べて、半分消化した状態のものをヒナに与えます。ヒナが餌をせがむと、
親トキは口ばしを開け、エサを吐いて口移しします。親トキはヒナの成長に合わせてエサの状態を調節します。生まれてすぐのヒナには、
胃の中でしばらく時間をおいて液体状になったものを与え、ヒナが大きくなると形がほとんど残っている状態で与えます。
ケージのエサは普段どおりドジョウと人工飼料が中心です。
ヒナはエサをねだり首を上げてこの時期特有の鳴き声で鳴きます。トキらしい声になるのは巣立ちしてからずっと後です。

(育雛室から出したヒナ。首をふったり鳴いたりしてエサをねだります。 写真:佐渡トキ保護センター)
●自然繁殖でのエサやり
親トキはヒナが生まれて1日くらいたってから最初のエサを運びます。
ヒナはお腹の中に卵黄が残っているので1日くらいはエサを食べなくても大丈夫です。親トキは、
元気に首を上げて鳴くヒナにエサをあげる傾向があります。遅く生まれたヒナはピーピー鳴いているのにエサをもらえず、
体が小さいこともあります。佐渡トキ保護センターではエサをもらえないと判断した場合、巣からヒナを持って来て人工で育てます。
和食獣医師は、「エサ不足でヒナが死ぬのはふ化後3~5、6日目あたりです。ヒナから何かサインをもらえれば、救出しに行きますが、
私はトキを飼育してまだ3年目ということもあり、日ごとに成長するヒナの大きさや、健康状態をモニターごしに判断することは大変難しく、
この時期が一番緊張します」と話しています。

(11日齢のヒナ。エサをあげています。 写真:佐渡トキ保護センター)
●人工飼育の場合
人工飼育の場合は、ヒナが生まれてから半日経つと飼育員がエサを与えはじめます。エサは人工飼料に小松菜などを加えたもので、
硬さも調節します。飼育員は1日4回、エサを与えます。
エサの量は、初日は3ミリグラム程度、2日目は8ミリグラム程度で、日々量を増やしていきます。

(給餌用の注射器。ヒナにケガをさせないよう、先端の突起を切ります)
●ヒナの世話
自然繁殖で、親トキはヒナを巣の中で約40日間育てます。親トキがヒナにエサを運ぶ回数は日に日に増え、エサやりに追われます。
ヒナが巣の中でしたフンを巣材ごと巣から出して、新たな巣材と交換し、巣をきれいに保ちます。ヒナの体に羽が生えてくると、
親トキは口ばしでヒナの羽づくろいをします。人工飼育のヒナの羽づくろいを飼育員がしてみることがありますが、親トキにはかないません。
親トキが行う羽づくろいはとても上手で、ヒナもきれいです。ヒナが立ち上がるころになると、自分で羽づくろいをはじめます。

(育雛室。横の穴や正面の窓を開けて換気をし、温度を調整します)
●人工育雛(いくすう)
佐渡トキ保護センターでは人工繁殖でヒナが生まれると、まず、ヒナの体重を計り、くぼみのある台に乗せて暖かい育雛室に移します。
そこで2週間ほど育てた後、広い保温室に移動させます。このときのヒナはまだ台の上でしゃがんでいる感じです。
両足で立つようなると台から大きめの洗面器に移します。
洗面器から出るようになってしばらくしたら保温室の仕切りをはずして外の部屋を自由に歩けるようにします。
設置してある止まり木にとまるようになったら大人のケージへ移動です。人工ふ化や人工繁殖させたヒナでも、親に育雛能力があると判断すれば、
途中で巣に戻すこともあります。
飼育員の姿を見つけるとすぐ寄って来たヒナたちも、成鳥と同じケージに移動するころになると人見知りをしてだんだん寄って来なくなります。
「よそよそしくなったヒナを見ると、成長したうれしさもありますが、少し寂しさもありますね」と和食獣医師も複雑な表情です。

(保温室。ヒナがケガや病気をしないよう気を配って、事前に掃除や整備しておきます)
●もっとも忙しく、
気をつかう時期
佐渡トキ保護センターが1年でもっとも忙しいのが、ヒナの世話をする時期です。通常の仕事に加え、繁殖トキやヒナ、
人工ふ化する卵の世話など、いつも以上に気をつかいます。とりわけ、ヒナの世話は1日に何度も手がかかるので、
人工飼育のヒナが増えるほど忙しくなります。ヒナはちょっとした傷口から細菌に感染して死んだり、後遺症が残りやすいので、
忙しくても細心の注意が必要です。

(20~25日齢くらいのヒナ。 写真:佐渡トキ保護センター)
こうしてヒナは、親トキや佐渡トキ保護センターの職員に見守られながら、みるみるうちに成鳥に近づいていきます。
「佐渡トキ保護センターのトキの繁殖」来月は巣立ちのようすを紹介します。

(35日齢くらいのヒナ。大人のケージにもうすぐ移動です。35日齢くらいになると、
生きたドジョウを自分で食べられるようになります。 写真:佐渡トキ保護センター)
「佐渡トキ保護センターのトキの繁殖」シリーズ、来月は『ヒナ巣立ちと成長(6月~)』
です。
