■ トキ・メッセージ15 佐藤春雄さん
2008年9月25日、いよいよトキが佐渡の自然下に放たれる試験放鳥が行われます。日本の空にトキがいなくなってから、
27年が経ち、多くの人がこの日を待ちわびていました。
なかでも、佐渡とき保護会の顧問である佐藤春雄さんは、第二次世界大戦後の昭和21年(1946年)
から今日まで60年以上に渡ってトキの観察と保護、野生復帰に取り組んでこられました。佐藤春雄さんは、大正8年(1919年)
に佐渡で生まれ、現在89歳。今も野鳥の観察を毎日の日課にされています。佐藤春雄さんにとっても、9月25日は夢にまで見続けた日です。
今回は佐藤春雄さんに、野生のトキや、トキ放鳥後の私たちとトキとの関わりについてメッセージをいただきました。
(インタビュー・文責:トキファンクラブ事務局)
(佐藤春雄さん)
●トキとの出会い
私が「トキ」という鳥を知ったのは、戦争を終えて、佐渡へ帰った昭和21年(1946年)ですから、27歳のときです。
小さい頃から鳥が好きで飼っていたりしましたが、トキは見たことがありませんでした。
トキのことを調べ始めたら、昭和の初めころからトキを保護していた人がいるという話を聞きました。昭和6年に、
ある座談会ですでに絶滅したと考えられていたトキを見たという話が出ました。それが公式の再発見につながって、
川上喚濤という佐渡の偉人と新穂の後藤四三九さんが、トキの保護に力を尽くしたのです。それに関わった人達に直接話を伺いました。
新穂の後藤四三九さんのところに行ったり、最初にトキの営巣地が確認された和木に行ったり。私は自動車免許を持っていませんので、
いつも自転車でした。当時は若かったので片道10kmでも平気でした。むしろ、
自転車は静かで鳥の鳴き声なども聞こえるので自転車は苦になりませんでした。
トキをはじめて見たのは、昭和22年(1947年)椎泊の谷平です。学校の授業が終わったら毎日自転車で通っていました。その後は、
谷平の山に入り、ひとりでワラの中に潜って、トキの行動を観察し、記録していました。
それから高野高治さんや菊池勘左衛門さんたち多くの人と一緒にトキの保護に努めました。
●いよいよ佐渡の空にトキがもどってくる
今ここに、皆さんの努力が実って、放鳥の日が決まりました。地元の人、島外の人、専門家、中国の人、
みんながトキ保護にかけてよくがんばってくれたなぁと、感謝をいたしています。私は、1日1日を、「あと何日」
ということで張り合いにして生きています。本当に嬉しい日が来きます。9月25日まで、トキが佐渡の空を飛べる力が得られるよう、
トキにもがんばってもらいたいなと祈っています。そして、トキが大空高く舞い上がってくれるものと、私は期待しています。
●だれもがトキ保護の関係者
トキが放鳥されたら、
佐渡に暮らす人たちみんなに、トキへ関心を寄せてほしいと思います。9月25日以降は、全員がトキと暮らす、トキの関係者です。
専門の観察員だけでなく、以前のトキ愛護会のように地域全員が会員になったつもりで、トキを助ける気持ちを持ってもらって、
トキを見かけたら報告したり、田んぼに水がなかったとか、ビオトープに水がなかったとか、水を引いたよとか、そういうことを言えるように、
市民も関係者も頑張って欲しいです。
(資料をもとに、佐渡にいた野生のトキと保護のあゆみを語る佐藤さん)
●トキへの姿勢は「無関心の関心」
で
トキは生まれつき、とてもおとなしい鳥です。佐渡トキ保護センターで飼育されたトキのキンちゃんは、もともと野生のトキですが、
幼鳥で捕まり、とてもおとなしかった。通常の野生のトキは非常に警戒心が強く、人を見れば逃げます。この正反対の性格は、
どうして生まれたのでしょう。生来、気の優しいトキが、人を見ると逃げるようにしてしまったのは、人間が原因だと思います。
明治以来の人間のトキへの扱いが、トキを神経質な鳥にしてしまったと思うのです。中国でも野生のトキは神経質だと言いますが、
人工飼育の後放鳥されたトキは家の裏の木に巣をかけたりします。トキは、人の扱いによって、人間に慣れたり神経質になったりします。
これからみなさんがトキとかかわる上で、心に留めておいていただきたいことです。
ですから、放鳥されたトキを見かけても、人間の方からトキに接近するのではなく、 トキの方から寄って来るのをじっと待つくらいの度量がトキには合うんじゃないかと思います。昔の恋の歌に、「惚れていながら、 惚れない素振り」という歌がありましたが、そういうことです。本当はとても関心があっても、トキには知らないそぶり、これを私は 「無関心の関心」と言っています。
特にトキを静かに見守るべき時期があります。それは繁殖期です。トキの繁殖期は、羽が繁殖期特有の灰色の羽に生え換わるころから、
ヒナが巣立ちをするまでです。私が野生のトキを見た中で、最も早く、灰色の羽を観察したのは1月15日です。ですから、
1月~6月いっぱいくらいの期間は営巣地を静かにする必要があります。
トキは繁殖期に極度に鋭敏になります。人間の干渉があれば、子育てに専念できません。オドオドしながら巣を作り、巣も貧弱になります。
もし人が静かにしなかったり、干渉することがあれば、トキはヒナを放棄するかもしれません。ヒナが巣立ちをし、ある程度大きくなれば、
もう観察をおこなっても大丈夫です。トキはもともと繁殖力旺盛な鳥です。トキが安心して子育てできるよう、静かに見守ってあげれば、
トキは増えます。
もうひとつ大切なのはトキが暮らせる環境を整えることです。特に、冬場のエサ場づくりと営巣地の森づくりです。
●佐渡の生きものに目を向けてください
トキのほかにも、佐渡には希少な鳥が、今もたくさんいます。佐渡には、いろいろな渡り鳥がやってきます。
コウノトリやツルだって佐渡に来ています。加茂湖にはコブハクチョウがヒナを育てています。
鳥だけではありません。私は家の周りの生きもの調査を今もやっています。川や堆肥の中の昆虫を捕って調べています。
かつて野生のトキが食べていたサワガニについても、佐渡で減ってしまったことについて、サワガニの観察と研究を続けています。みなさんも、
生きもの調査の入門編からやってみてください。トキだけではなく、トキを取りまく環境や、佐渡にいるいろんな生きものに目を向けてください。
その生きものが、どんな環境で、どうやって生きているかに関心を持ち、研究することはトキの保護にとても大事です。
●ミサゴはトキ放鳥の吉兆
トキは、シベリアでは警戒心の強いシロフクロウの近くに生息していたそうです。かつて野生のトキが新穂地区の黒滝山で繁殖しているとき、
近くでミサゴが繁殖をしていました。立間地区でもトキの繁殖地の近くにミサゴの巣がありました。ミサゴも警戒心が旺盛な鳥です。
人間が近づくと、まずミサゴが飛びます。続いてトキが逃げます。トキは外敵から身を守るために、隣人の警戒心を利用しているようです。
今、トキが訓練している野生復帰ステーションの近くでも、ミサゴが巣を作り、繁殖をしているそうです。放鳥後、
トキが繁殖するいい前兆という感じがしてます。先年、片野尾地区でもミサゴの巣が見られています。
ミサゴは島内各地で結構繁殖している鳥です。トキの野生復帰を助けてくれるかも知れません。
