■ 寄稿「稲田の瞳」近辻宏帰
近辻宏帰さんから、秋の佐渡の鳥たちについて寄稿していただきました。
「稲田の瞳」
文・写真/近辻宏帰(元佐渡トキ保護センター長、財団法人日本鳥類保護連盟参与)
プロローグ
トキ放鳥に沸き立っている佐渡。稲刈りの終わった国仲平野は、刈田の広がりに秋の風情を漂わせている。季節をさかのぼると、
この平野にはまったく違った鳥景色があった。8月中旬からの1か月、日ましに黄金色に色づいていく稲穂の波。そのただ中に、
ささやかな開水面があった。調整水田と呼ばれている。
飛ぶ鳥にとって水のきらめきは砂漠のオアシスのように絶えがたい吸引力となっているのだろう。そこには、カモ、サギ、シギ・
チドリ類といった水鳥、水辺の鳥たちのつかの間の賑わいが見られた。
羽族たちの織りなす様々なパフォーマンスは、まさに鳥たちの野外劇を観るようだ。採餌、休息の場所として、鳥たちにとっては、
魅惑の瞳と映っているのだろう。その水地を、私は“稲田の瞳”と呼んでいる。

(稲田の瞳)
鳥たちの祝祭
“稲田の瞳”劇場の主要な配役たちは、北の繁殖地から南下途中のシギ・チドリ類。いずれ劣らぬ美声の持ち主で、
さしずめオペラ歌手といったところだろう。チョーチョーチョーの三音節は「アオアシシギ」。夏の暑さを払拭する透明な高音を聴くと、
なぜか嬉しくなる。「ムナグロ」は、夏羽から冬羽への衣装替えの最中。チューウィーと発声したのに畦の舞台では、
キビョと鳴いたりする音域の広いテクニシャン。飛び立つ際のチュィリーの決め台詞の得意な「クサシギ」。
地味な子役だけどチリリと虫の音のように聞こえる「オジロトウネン」。ピッピッと鳴いて飛んで、いつも舞台を賑わす「タカブシギ」。

(アオアシシギ)
サギ類は、静かな演技が持ち味だけど、たまさかの輪舞も得意。じっと佇み優雅に小魚を獲ったり、突然白い翼を広げてパッと舞い踊ったり。
「ゴイサギ」は異色の役者だ。昼は、目立たないけど、夜間公演ではクァックァッと鳴いて飛んで、大きな目を見開いての餌漁り。
カモは群舞。採餌、休息、飛翔も一糸乱れぬ統一美。中でもコガモと紛うエクリプス羽(注1)のシマアジは、通の観客に人気が高い。
飛ぶと翼に灰色のマントが翻り、それと判るのだ。

(カルガモ群)

(コウノトリとダイサギ)
さて、“瞳”劇場での主役は、なんと言ってもコウノトリ。威風堂々とその気品ある姿は、観客を魅了した。台詞はいっさいしゃべらない無言劇。
頭を背面に反らし(イナバゥアーのポーズ)くちばしをカタカタと鳴らすパフォーマンス(クラッタリング)は、一度も披露しなかったけど、
この舞台がお気に入りのようで、時折、楽屋で寝泊まり(ネグラ)していた。ある爽やかな夏の朝、コウノトリは突然、高く高く舞い上がり、
北の方向に姿を消した。“カムバック!シェーン”有名な西部劇のいちシーンを想起するように、“カムバック!キコニア(注2)”
と見送った人がいたらしい。
かくして、入場無料の野外劇場は、「鳥たちの祝祭」公演を終了。水が引くとともに静かに閉幕した。
エピローグ
“稲田の瞳”は今、降雨のあと以外は乾燥した地となっている。あの夏の宴が信じられない風景だ。しかし、朗報もある。佐渡をプイとあとにし、
異郷で主役を張っていると思われていたコウノトリは国仲平野に健在で、夏の日を懐かしむように“瞳”劇場跡に、時おり優美な姿を見せている。
国仲平野には、マガン・ヒシクイの一群、コハクチョウの家族群、ミヤマガラス・コクマルガラスの混群、タゲリの群れなどが、
北国からの使者として早くも姿を見せている。

(皆川地区排水路にて コウノトリ)
注1)エクリプス :カモ類の雄は繁殖後期から秋にかけて雌に似た羽色になる。この時期の羽色をエクリプスという。
注2)キコニア:コウノトリの属名。
スクリプターの忘備録
観察地 :佐渡市新穂皆川耕地
観察期間 :2008年8月16日~9月15日まで
出現鳥(出演者)のリスト(分類順)
【サギ科】
ゴイサギ
アマサギ
ダイサギ
チュウサギ
コサギ
アオサギ
【コウノトリ科】
コウノトリ
ガンカモ科
マガモ
カルガモ
コガモ
シマアジ
【ワシタカ科】
トビ
【ハヤブサ科】
ハヤブサ
【チドリ科】
ムナグロ
【シギ科】
トウネン
ヒバリシギ
オジロトウネン
エリマキシギ
ツルシギ
コアオアシシギ
アオアシシギ
クサシギ
タカブシギ
タシギ
チュウジシギ
【カモメ科】
ユリカモメ
【アマツバメ科】
アマツバメ
【ヒバリ科】
ヒバリ
【ツバメ科】
ショウドウツバメ
ツバメ
【セキレイ科】
ツメナガセキレイ
ハクセキレイ
【ホウジロ科】
ホオアカ
【ハタオリドリ科】
スズメ
【カラス科】
ハシボソガラス
ハシブトガラス
計 36種
新潟発12時30分のカーフェリーおおさど丸・1等イス席にて 近辻宏帰
