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■ 「トキを見た!」地域の人の声-トキの野生復帰連絡協議会会長 高野毅さん-

9月に放鳥されたトキは、佐渡や新潟のいろいろな地区を訪れています。
トキを見たときのお話しを、地域の人に聞きました。
(聞き取り:佐渡トキファンクラブ)

●トキの野生復帰連絡協議会会長 高野毅さん

佐渡の自然の中にトキがいなくなって27年ぶりに空を舞うトキを見ました。9月のトキ放鳥式典でトキを放鳥した瞬間は、 みんながトキ野生復帰を支えてくれたこれまでのことと、私が小さい頃ふるさとの生椿地区で見ていた、 ねぐらに帰るトキが子どもたちの声に応えて鳴いてくれた情景を思い出しました。

2羽の飛翔
(2羽の飛翔 写真提供:高野毅さん)

私が生まれ育った生椿地区は、昭和の初めに4戸ほどの家があった、山深くの小さな集落です。私の父・高野高治は、 「子どもたちに安全な食料を食べさせたい」「トキのいる環境を後世に残したい」という思いで、戦後食糧難の時代の中、 田んぼの一部をトキのエサ場にしたり、有機農法の稲作を続けました。高治はトキへの取り組みから、昭和42年にできた 「佐渡トキ保護センター」の嘱託職員に命じられ、技師として佐渡に来た近辻宏帰さんとともに、トキの人工飼育と繁殖に尽くしました。 高治は家族の前でトキの話をあまりしませんでしたが、晩年、「トキ保護をやってきたけれども卵、ヒナひとつ、育てられなかった」 と言いました。生椿地区の人たちはトキに暖かい目を持って、高治と一緒にトキの保護を行っていました。 子どもたちもトキのねぐら調査など一緒に協力しました。1989年(平成元年)に、私たち家族が下山したのを最後に、 生椿集落に住んでいる人はいなくなりました。
私は、後世に生椿地区があったことを伝えたいと思いました。生椿地区の長い年月に育まれた歴史や文化はもちろん、 私は生椿で生まれ育った者として、人や動植物に慈しみをもってともに暮らしてきた生椿地区の心を残したいと思いました。そこで、 賛同してくれる人たちとともに、トキと人が共生する生椿地区を紹介し、ダウ(トキ) 畑といわれた棚田などの環境を維持しようと活動をしていました。

ビオトープづくり

2000年(平成12年)に環境省が、トキを佐渡の自然にかえすための計画づくりを始めました。生椿地区や島内の数カ所の地域で、 トキと共生するための地域再生モデルとなり、環境整備活動や協力してくれる人の輪が広がりました。2003年(平成15年)には、環境省、 新潟県、佐渡市が合同で、トキ野生復帰の計画を決定しました。そこで翌年、トキ野生復帰にむけての情報を共有できるように、行政と、 地域で環境保全を行っている団体、生産組合、大学、旅行会社など、さまざまな関係者が集まって「トキの野生復帰連絡協議会」 を立ち上げました。これによってトキを軸にいろいろな人が集まるようになり、島内外からのボランティアや協力者も加わって、 大きな力になりました。各地域や団体がいろいろな協力を得ながら努力を積み重ねた結果、各地区主動の地域づくりや里山整備が進みました。  

生椿風景

協議会ですすめるトキと共生する環境づくりは、地域各々の活動が主体です。トキが野生復帰するためには、 トキを受け入れる自然環境と人の社会が必要です。地域のあり方は多様で、それぞれ背景も環境も習慣もトキへの思いも異なっています。 ひとつひとつの地域が、トキとの共生という目線から地域を見直し、自分たちの豊かな地域社会の未来像を導いて、 地域のやり方に合った方法を行うのが一番よい方法です。

ビオトープづくりの、ひとコマ

トキと共生するには、かつてそうだったころの地域の生活を、もう一度見つめなおすことが必要です。 大切なのは生活のしかただけを知ることではなく、背景にあるものを体験することです。それは実際に経験して、おじいさんおばあさん、 お父さんお母さんから教わることで分かります。人々が協力し合い、自然とともに暮らしていた生活の背景には、命の大切さや、 互いの痛みが分かる心がありました。現在では、先代の人たちが築いてきた表層だけを利用するか、まったく利用しないで、 背景や前提にある気持ちは「今の時代に、なんだそんなもの」といって子どもに伝えることもありません。大事なことを失った結果、 私たちはトキや他の生きものを失ったし、地域の自然環境や人のつながりも失いかけています。
地域を見つめ直すことで、それぞれの地域の大切なもの・守っていかなければいけないものを知ることができます。 地域の大切なものを共感することによって、トキ野生復帰にむけても、みんなで協力ができると思うのです。

飛翔
(写真提供:高野毅さん)

現在、佐渡ではトキと暮らすための「共生のルール」がありますが、トキに近づきすぎて観察するという場面もありますし、 来年の春になればトキが田んぼに入って稲を踏む問題も出てくるでしょう。今年、ついに佐渡の自然下にトキが戻り、 人とトキとがどのように共生するかという模索が始まったところです。多くの人に少しでもトキの野生復帰に実際に関わってもらい、 そのなかにある人々の想いを感じて、自然と共生する活動を全国に広げてもらえればと思います。

[ 掲載日 2008年12月05日 | 読みもの ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]