■ トキ・メッセージ1 元・トキ保護センター長・近辻宏帰さん
トキの想いを語る、トキとともに40年
毎年、トキ交流会館にはたくさんの修学旅行生がやってきます。トキのことを学び、トキの野生復帰の活動を体験するためです。
近辻宏帰さんは、そんな子どもたちにトキの生態や最後の日本産トキ・キンちゃんと暮らした長い月日の思い出、
トキの野生復帰の大切さを語りかけています。トキ博士の近辻さんにトキへの想いを聞きました。
近辻宏帰さん
1943年東京生まれ。中学生のころから鳥に興味を持ち、
日本野鳥の会や日本鳥類保護連盟のボランティア活動を続けてきました。早稲田大学卒業後、
1967年から定年を迎える2003年まで佐渡トキ保護センターでトキの保護・増殖活動を続けてきました。元佐渡トキ保護センター長。
日本鳥類保護連盟参与。
監修「トキ永遠なる飛翔―野生絶滅から生態・人工増殖までのすべて」(ニュートンプレス 2002)
NHK「プロジェクトX 挑戦者たち 第V期7 幸せの鳥トキ 執念の誕生」出演
●トキの持つ意味
トキは、学名がNipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)と国名のついた日本を象徴する鳥です。
国名が学名になっているのはとてもめずらしいことです。また、日本には「朱鷺色」がありますが、
鳥にちなんだ色の呼び名もウグイス色など少ししかありません。しかもその色は、桜に似た日本人好みの色です。
●トキが選んだ佐渡
トキは、かつて北はロシアのウスリー地方から中国、朝鮮半島、日本に広く生息していました。
トキには渡りをするグループと渡りをしないグループ(留鳥性)がいました。寒い地方のトキは冬にエサを求めて暖かい地方に行き、
春には北に戻っていました。この渡りをするトキは100年ほど前にいなくなり、渡りをしないトキだけが生きのびました。最後に残ったのが、
日本の佐渡島、中国の洋県です。
佐渡は、日本で最後のトキの群れが生き残った地域です。佐渡がトキにとって一番住み心地のよい場所だったということです。
その理由を考えてみました。
(1)気象
佐渡は北にありますが、おだやかな気候で、平野部は雪も少なめです。
(2)自然
佐渡は、高い山、低い山、棚田、平野、湿地など地形や自然環境がとても多様な島です。トキにとっては、エサをとる田んぼや湿地も、
巣を作る木も風よけになる斜面もそろっていて、長距離を移動しなくても安心してすごすことができました。さらに、大きな猛禽類が少なく、
トキを襲う動物が少なかったこともトキにとってはよかったのです。
(3)人
佐渡は米どころです。魚や野菜などもいろんな種類がとれる豊かな島です。そのせいか佐渡に住んでいる人はおだやかで、
トキが田んぼにいることを受け入れる気風があります。
天・地・人のすべてで、トキにとって佐渡は最高の場所として選んだのだと思います。
●トキが人との共生を求めた
かつて、トキのエサ場は、ため池や川のまわりの湿地や干潟などでした。人が山を開いて田んぼをつくっていったことで、
トキの巣やねぐらのある木のそばに田んぼという良好な水辺のエサ場ができ、それがトキの生息域を広げました。
だから、トキは人に対して友好的な遺伝子を持っています。トキからみれば人間も自分の生息環境にいるひとつの生き物です。
いつも見ている農家の人に対しては安心して近づいていました。
トキという鳥は、田んぼを通じてトキの方から人間との共生を求めてきた生き物なのです。
●今度は人からトキとの共生を
だから今度は人のほうが、トキを通じて多くの生き物と共生する社会をつくるときです。
日本人は農耕民族であり、日本は稲穂の国です。トキと日本人は、田んぼをキーワードとして共に同じ地に生きていました。そのトキが、
日本では一度絶滅しました。そして今、野生復帰に向かっています。私たちは、もういちど自然や多くの生き物と共生できるのか、
それをトキの野生復帰という形で試されているのだと思います。
佐渡島は、トキが最後まで群れとして生きていた地です。それは、佐渡がトキに住みよかったということです。だから、
佐渡島でトキの野生復帰をはじめるのです。佐渡は日本の自然環境や人の生き方の縮図です。佐渡の人々が試されているだけでなく、
日本人が試されているのだと思います。
●近辻さんにとっての佐渡
東京の郊外に生まれ育ち、子どものころから鳥が好きで、縁があって佐渡のトキ保護・増殖に関わることとなり、
佐渡トキ保護センターを退職した今でも関わっていますので40年になります。佐渡で結婚し、定住しましたが、
最初のころはこんなに長く佐渡にいることになるとは思いませんでした。ただ、最初から佐渡には違和感がありませんでした。
佐渡は自然環境の多様性があり、たくさんの種類の鳥を見ることができます。2006年には個人で182種類を確認しました。
単に種類が多いだけでなく、海から山まで科のレベルでもたくさんの鳥に出会うことができ、鳥好きの私にとって佐渡は宝島です。
●メッセージ
佐渡が宝島なのは鳥だけでありません。植物が好きな人、昆虫が好きな人にとっても宝島です。伝統芸能や歴史、言葉(方言)など、
文化の宝島でもあります。だから佐渡を訪れるときに、自分の好きなことから佐渡を見つめると、
佐渡の自然や文化がそれにきっと答えてくれるでしょう。
佐渡は自然も文化も南北に長い日本の縮図です。そういう位置に、トキがいるのです。
だから、佐渡トキファンクラブに入ったみなさん、一度は佐渡に来て、味わって、佐渡の魅力を見つけてください。
もちろんトキの野生復帰のために保全活動にも参加してほしいのですが、それができなくても、佐渡の自然や文化や人にふれて、
その魅力をみつけて、応援してほしい。それから佐渡の産物を食べることも支援になります。
いつも佐渡島外の子どもたちから「佐渡には行けないけれど、トキを守るためにどうしたらいいの?」と聞かれます。そんなとき、
私は自分の住んでいる場所の身近な生き物に関心をもち、その生き物が何を食べて、どうやって生きているのかを考え、
生き続けられるように行動することが大切です、と伝えています。生き物のなかでトキだけが大切なのではなくて、
トキをふくめて生き物みんなが、人間と同じところで生きているのだから、身近な生き物を大切にすることがトキを守ることにつながります。
トキは、いのちの大切さのシンボルなのです。
近辻さんには、次号以降、長年トキのいた方ならではのトキのエピソードをお聞きしていきたいと思います。
