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■ トキ・メッセージ8 ドジョウは佐渡の身近な生きもの…ドジョウ博士の話

ドジョウはトキの主要なエサのひとつです。佐渡で飼育されているトキには生餌としてドジョウが与えられています。 トキ交流会館主任の金子恵久(かねこよしひさ)は佐渡市のドジョウ養殖事業を担当し、ドジョウ養殖池の管理も行っています。 ドジョウを養殖し、ドジョウとともに過ごして来た経験から、 交流会館のトキ学習に来た子どもたちにドジョウの生態などを紹介するドジョウ博士でもあります。今回は金子恵久が、ドジョウの話をします。

●佐渡でドジョウは「おおごっつお」
「ドジョウ1匹はウナギ1匹」と言われるほどドジョウは栄養価の高い生きもので、佐渡でも古くから食べられていました。佐渡の国仲地方では 「ドジョウ汁」として料理します。たくさんのドジョウとたくさんの野菜を集め、大鍋で煮て味噌で味付けをしたのがドジョウ汁です。 水温が高まり活動的になったドジョウを捕まえてつくるドジョウ汁は夏のわずかな期間しか楽しめない味覚で、佐渡の人にとって「おおごっつぉ」 (たいへんなごちそう)でした。鍋を家族で囲んだり、となり近所を集めてドジョウ汁会をしたり楽しい思い出があります。 牛肉や豚肉といった肉食をすることがほとんどなかった昔は、ドジョウは貴重な栄養源でしたし、また身近な生きものでもありました。

かぶと皿
(かぶと皿。ドジョウ汁など特別な料理を食べるときに使われたお皿)

●わくわくしたドジョウ捕り
私が幼いころ父がドジョウを捕るとき、父は田んぼやため池から取ってきた大ぶりのタニシを庭先で石を使ってつぶしていました。 勝手場では母が大きな焙烙(ほうろく)鍋にこぬかを入れて煎っています。こんな日は「だんだんドジョウ汁が近いな」と思ったものです。 つぶしたタニシと煎ったこぬかをまぜたものを竹を編んだ「ドジョウかご」という専用の網に入れて草で栓をし、田んぼやため池に仕掛けます。
ドジョウは匂いに敏感で、タニシの独特な匂いとこぬかの香りにつられてかごに入ります。 ドジョウかごは一度入ったら出られないしくみにできています。多いときにはかごいっぱいのドジョウが捕れて、親指以上の太さ、 割りばしほどの長さのドジョウも入っていました。「うまそうらのう」(おいしそうだ) と言わんばかりの仕掛け人の笑顔が今でも忘れられません。
最近はドジョウを食べることも少なくなりましたが、夏の時期になると食料品店でドジョウを売っているところもあります。 ドジョウ汁のほかにも唐揚げや柳川風煮などいろいろな食べ方があるので機会があれば食べてみてください。 食べることでドジョウへの関心を持っていただけたら幸いです。

ドジョウかご
(ドジョウかご)

●川と田んぼとドジョウの関係
昔は川やため池、田んぼの中にたくさんいたドジョウですが、今は当時ほど見かけなくなりました。一時期、 毒性の強い農薬が使われていたこともドジョウの減少に影響したかもしれませんが、 ドジョウのすみかである川のつくりが変ったことが大きな原因だと思います。近代に行われてきた川づくりは、川の氾濫を抑えることを目的に、 水が川のどこにも滞ることなく海まで流れていくようにつくられています。しかし川の側面と底をコンクリートで覆い、川の中の表情も、 水の流れも単調な川ではドジョウや他の生きものがくらす環境ができません。
昔の川や側溝は、土や石で作られていました。水の中に流れの緩やかなところや、よどんだところがあり、川底には石や砂、 泥といった様々な環境がありました。ドジョウや他の生きものはそこから自分に合った環境で生活し、産卵したり冬眠することができたのです。
ドジョウは夏になると川を上って栄養豊富な田んぼの水へ移動し、稲刈り前に田んぼの水が抜かれると再び川に戻りました。 現在の川の中には大きな段差がつくられていますし、田んぼと側溝の段差も大きくなりました。この環境の変化によってドジョウは川をのぼれず、 田んぼとの行き来もできなくなりました。自然のなかで再びドジョウをふやすならば、川のつくりを改善することが必要です。
ドジョウが田んぼのなかに増えたときに、秋の中干し期間に死んでしまわないように、田んぼの一部に常に水をためておく「江」 といった避難場所を設けるのもドジョウや他の水辺の生きものを生かすことができる方法です。

江のある田んぼ
(江のある田んぼ)

●トキのエサに3tのドジョウが必要
ドジョウは人間にとっておいしい食材ですが、トキにとっても大事なエサです。佐渡トキ保護センターで行われる3回の給餌のうち、 昼はドジョウが与えられています。野生復帰ステーションのトキのエサは主としてドジョウがつかわれ、 佐渡の自然下へ放鳥したあとトキが自力でエサを捕る訓練も兼ねています。
2007年12月1日現在、佐渡で飼育されているトキは95羽います。このトキのエサに必要なドジョウの量は年間約3tです。 来年以降も繁殖が成功しトキは増え続けるので、今以上にたくさんのドジョウが必要になります。

給餌のようす
(野生復帰ステーション ドジョウ給餌のようす  写真:佐渡トキ保護センター)

● トキのエサに佐渡産ドジョウを
現在佐渡トキ保護センターでトキに与えているドジョウの多くは関東の市場から仕入れていますが、佐渡産のドジョウをつかうことが理想的です。
島外から購入するドジョウは輸送中に弱ってしまいます。トキは生きた動物しかたべませんから、損失になる部分が多くできます。また、 トキが佐渡の自然下に放鳥されたあと食べるのは佐渡のドジョウです。 トキのエサを佐渡産のドジョウにすることでトキは放鳥前に佐渡のドジョウに馴れることができます。そして、 ドジョウといってもいろいろな種類があります。佐渡にいるほとんどがマドジョウです。他の国や地域から別の種類のドジョウが入ってきて、 佐渡にもともといたドジョウが減ってしまったり、絶えてしまうようなことになっては困ります。以上のようなさまざまな点から、 トキに与えるドジョウを佐渡産のドジョウにしたいのです。

  給餌のしくみ  ドジョウを流し入れる
(野生復帰ステーション給餌のしくみ。トキが自力でエサを探し捕まえることができるように、 地下パイプを通してケージ内の田んぼにドジョウを流し込みます。写真:佐渡トキ保護センター)

●ドジョウ養殖を応援します
トキに与えるドジョウをすべて佐渡産ドジョウでまかなうことを目標に、 佐渡トキ保護センターと佐渡市は協力してドジョウ養殖の推進をしています。
年に数回ひらく「ドジョウ養殖研修会」は、ドジョウ養殖を知ってもらうことと、養殖技術の修得と向上を目的に開催しています。 すでに島内でドジョウ養殖に取り組んでいる人の養殖池の視察や、島外のドジョウ養殖先進地から講師を招いて話を聞くなどしています。 養殖者や養殖に興味を持つ人たちが集まり、意見交換や情報収集の場にもなっています。
また、佐渡市の取り組みとして平成18年度から「ドジョウ養殖補助事業」を行っています。これはドジョウ養殖を始めようとする方へ、 養殖場をつくるときの費用の一部を助成するものです。申請者も年々増えており、ドジョウ養殖への関心が高まっていることを感じます。
養殖に取り組んでいるのは農家の方や企業が多いです。日本では近年お米の消費量が減り、 生産調整によってお米をつくってはいけない田んぼがあります。田んぼをつかってできるドジョウ養殖は、 農家の方にとっては代々受け継いできた田んぼを荒らさなくてすむ方法として、また、 体力的に稲作ができなくなった代わりとして注目されています。田んぼをつかわないよりは利用して、 少しでもトキのためになったらいいという考えの方も多くいます。

講習
(研修会のようす)

●おもしろいドジョウの生態
養殖をしているとドジョウの生態に驚くことがあります。ドジョウ養殖で最も大切なことのひとつはドジョウの逃亡を防ぐことです。 ドジョウは近くの水辺へと移動するのが得意です。逃げ道を探すのも上手でモグラが畦にあけた穴からも逃げていきます。 草や土で覆われた2mくらいの土手なら登ってしまいます。ドジョウはエラ呼吸のほかに腸や皮膚でも呼吸できるのが特徴です。腸呼吸や、 皮膚呼吸によってしばらくの間水から酸素を得なくても平気なのです。ドジョウの体はフナのように平たくなく、 筒状なので陸にあがっても倒れません。ヘビのようにくねくねと動いて前進していきます。 ドジョウの体を覆っているヌメヌメの成分が服のような役割をして体に雑菌がつかないように守ります。 陸上を大胆に渡って養殖者を困らせるドジョウですが、もちろん陸を移動中に鳥やムジナ(タヌキ)にパクッと食べられることもあります。

栄養豊富な環境を整えると、ドジョウは短い期間に大きく成長します。稚魚が成魚になる成長をみるのがドジョウ養殖の楽しいところです。 ドジョウのふ化の時期は水温が20度C以上になる5月中旬から9月頃で、1匹のメスのドジョウは約8千~1万個の卵を持ちます。 排卵のためにホルモン剤を注入したメスドジョウ1匹とオスドジョウ2~3匹を一緒に水槽に入れておくと、 約15~20時間後に産卵受精されます。3日くらいすると1.5mm~2mmの稚魚がふ化します。ふ化後2週間で約2cmになり、 養殖池で育てて2~3ケ月ほどで7~10cmの出荷できる大きさになります。

ドジョウのオスとメス
(ヒレが大きく、とがっている左がオスのドジョウ。右がメスのドジョウ)

●ドジョウ養殖の基本は土づくり
ドジョウ養殖には農薬も化学肥料もいりません。ドジョウ飼料を与えますがエサの基本は土づくりです。
土が肥えていると、水中にミジンコやワムシといった微生物がたくさん発生し、それをドジョウが食べて大きくなります。 農薬や化学肥料に頼らない土づくりは、有機農法と同じことです。つまりドジョウが育つ池をつくるには、 農薬や化学肥料を使わない昔の田んぼづくりに従うのが一番よい方法です。田んぼや池に肥やしを入れて、耕運機で土を返し空気を入れます。 暖かい季節になって水温が高くなると、微生物が増えて、それを食べるドジョウといった生きものが成長します。 昔の田んぼは稲を育てるだけでなく、微生物やドジョウといった生きものをはぐくむビオトープの役割もはたしている場所だったのです。

●佐渡ドジョウ養殖のチャレンジ
佐渡で行われているドジョウ養殖は現在「最重点目標」を持っています。 それは佐渡のドジョウ養殖者がドジョウの人工ふ化の技術を修得することです。 稚魚を確保し安定したドジョウの供給を目指すためにドジョウの人工ふ化は欠かせないことです。 今年度までは佐渡産ドジョウを新潟県長岡市にある新潟県内水面水産試験場に送り、 そこでふ化させた幼魚を佐渡に返してもらい養殖者に配布していました。しかしそのふ化事業も終わることとなり、 来年の平成20年度からは佐渡の養殖者が自分たちで人工ふ化を行わなければなりません。佐渡で現在ドジョウ養殖に取り組んでいる方々は、 研修会を通じたり、熱心な観察や勉強をして人工ふ化の方法を試行錯誤しています。養殖者の方々が養殖技術を高め、 人工ふ化の方法を確立させようという強い気持ちを感じます。

今年度はトキのエサとしてドジョウを佐渡トキ保護センターへ出荷する方が増え、 トキが放鳥される来年以降の本格的な出荷に向けてさらなるドジョウ養殖参入者と養殖技術の向上に期待がかかっています。
今後も佐渡産のドジョウが、トキにも人にも、安心して食べてもらえるような生産を目指して行きます。トキを通じてドジョウを知ったり、 ドジョウから身近な環境のことを考えたりして、より多くの方々にドジョウに関心を持っていただけたらと思います。 そして佐渡のドジョウ養殖事業へのご参加とご協力をお願いいたします。

養殖場の視察
(研修会にて 養殖場の視察)

■ドジョウ養殖についてのお問い合わせ 佐渡市環境課トキ推進室

なお佐渡市では佐渡市ドジョウ養殖助成事業を、平成20年度も引き続き実施する予定です。
おおよその申請数を事前に把握したいので、平成20年度の助成事業を希望する方や、興味がある方は上の問い合せ先までご連絡ください。

[ 掲載日 2007年12月10日 | 読みもの ▼ひとつ前へ戻る ▲ひとつ次へ進む ]